海外転職を考え始めたとき、どこの国に住みたいか?どんな仕事につけるのか?必要な英語力は?などが最初に頭に思い浮かぶのではないでしょうか?でもそれよりもっと大事なこと、それは就労ビザです。これまでビザが延長できずに泣く泣く帰国する人や、ビザ対策が後手に回って相談に来られる方を何人も見てきました。この記事ではなぜビザが落とし穴になるのか、失敗しないためにはどんな対策をしたらいいのかをお伝えします。
日本人にとって落とし穴になる就労ビザ
海外に移住することも移民を受け入れることにも比較的消極的な日本では、海外移住や海外転職は身近なものではなく、外国からの移民とおつきあいしたり、友人になったりする機会が頻繁にあるわけではありません。またほとんどの日本人は生まれてから死ぬまで日本で暮らし、日本で仕事をして一生を終えるので、ビザについて考える機会は海外旅行の時以外ほとんどありません。
ですから多くの人は、自分が海外移住することを考え出した時に初めて真剣にビザというものに向き合うことになります。そして日本で当たり前のように住んで働けることが、国籍を持っていない国では全く当たり前ではないことに気づくのです。通常は外国で労働するときにはビザを申請し、条件を満たして許可が出ないと働くことはできません。
ビザは各国の移民法で定められ、素人にはわかりにくいものです。そのため海外転職を考えるときについつい後回しにしてしまい、ビザが得られずに問題になるケースはたくさんあります。海外就職を考えるなら、ビザを最初に考えるべきと言っても過言ではありません。
どうして外国人を働かせてくれるのか
外国人に仕事を与えるのは、国として有利性もありますがリスクもあります。グローバルな人材を呼び込んで競争力を高めることができる一方、外国人が無秩序に流入してくると社会秩序を乱すことになりかねないし、国内で仕事につくと自国民の仕事が奪われる可能性があるからです。
それでは国はなぜ外国人労働者を働かせてくれるのでしょうか? それは、彼らが自国民だけではまかないきれないスキルを持っているからです。多くの国では人材の採用をする時、その職種の専門スキルや職務経験が必要になります。仕事の需要があるのにそれをこなすことができる能力を持つ人が国内に少ない場合、自国民を一から教育してスキルをつけてもらうより、最初からその仕事ができる外国人を連れてきた方が効率がいいのです。高度なスキルを持つ人材を迅速に確保することは、国の経済成長や競争力の強化に必須です。
単純労働者を受け入れる国もたくさんありますが、多くは短期の需要を満たすための短期ビザなので、ビザが切れると自国に帰ることになります。高い専門性を持ち、自国民では取得が難しいスキルを持っている人は長期間に渡って働くことができます。その国の言語能力や社会常識を身につけ、長期間にわたって国の経済発展に貢献できる人材には永住権が与えられ、さらに希望すれば市民権を得ることができます。
ですから、ある程度の期間、継続的にその国の雇用主のもとで働いて十分な収入を得たいなら、あなたがその国に必要な人材であることを証明し、長期間の就労ビザをもらわなければなりません。ある程度の税金を払い、国に大きな利益をもたらしてくれる人ほど、国のサポートを受けて長期間安心して住める権利が与えられます。
就労ビザが切れたら国外退去も
就労ビザの中で一般的なものに雇用主のスポンサービザがあります。外国人が会社に採用されたとき、その会社ががスポンサーになってくれてビザの申請ができるというものです。しかし雇用主がいくらその外国人を雇いたくても、国がその外国人を移民させることに同意しない場合はビザは発給されません。
国としては、その外国人が自国民では簡単に得られないスキルを持っていること、その仕事ができる自国民が他に見つからないこと、その外国人が移住先で安定した生活ができる給料を得られること、いろいろな条件がクリアになって始めてビザが発給されます。
無事に就労ビザが出たとしても、レオオフや解雇で退社する場合には、ビザスポンサーとの関係もなくなりますから、もしその国にとどまりたい場合は別の手段を考えなくてはなりません。ただちに次のスポンサーを見つけるなどしてビザが得られない場合は、国外退去になります。長期間安定してその国に滞在したい場合は、特定のスポンサーに頼らずに働けるビザを用意しておくと安心です。
コロナ明けに多くのグローバルIT企業が大量解雇をして話題になりました。解雇された多くの技術者たちの中にはスポンサービザで働く移民も多く、彼らの中には母国に帰る選択を迫られた人も少なくありません。私も、もっと滞在したくてもビザが切れて日本に帰らざるを得ない多くの日本人を目にしてきました。
ビザの期限を常に気にしながら海外に滞在するのは大きなストレスになります。一番安心なのは、できるだけ早く永住権を取ってしまうことです。永住権があれば国民と同等の権利が得られ、期限切れを気にすることなくその国に滞在できます。しかし、就労ビザの種類によっては永住権に繋がらなかったり、永住権への道が遠くなってしまうケースもあるので注意が必要です。
ビザ戦略は海外転職で最初に考えるべき重要ポイント
海外就職を考え始めたとき、最初はどうしても、どこの国に住みたいか?どんな仕事につけるのか?必要な英語力は?などと考えがちです。しかし一番大事なのはどの国でどんなビザが取れるのかを知り、長期にわたって滞在する戦略を最初から考えておくべきです。そうしないと、晴れて海外で仕事を得て海外生活をエンジョイしていても、数年後には帰国するはめになりかねないからです。
ビザの基準は頻繁に変わり、その国の経済状況や政治情勢などによって移民を受け入れたり絞ったりして調整します。そのためビザが取得できるかどうかはタイミングと運が物をいうという側面もあります。興味のある国の移民受け入れ状況は常に目を光らせておくことが重要です。
ビザはその国の意向に従わざるを得ず、規定がひんぱんに変わるため、自分でコントロールするのが難しい分野です。短期間の滞在ではなく、海外で仕事を得てある程度まとまった期間働きたい人は、どのビザを取ってどのような戦略でその国に長期間滞在していくのかというロードマップを、早いうちからしっかり考えて計画をたててください。