私は学生時代は、数学など理系の科目はあまり得意ではありませんでした。大学は文系学部で、ITからは程遠いただの事務職をしていました。でも今はなぜか海外にいて、IT専門職として働いています。人生何が起こるかわからないですよね。
IT職への転職はキャリアアップに役立っただけでなく、海外就職への道が開かれました。ではバリバリの文系事務職だった私が、どうやって全然畑の違うITエンジニアとしてキャリアを積んでこれたのでしょうか?
最初は営業事務からスタート
大学を卒業して最初に就職したときは営業事務職。ITにはまったく関係ない仕事でした。営業部門の経理の仕事もしていて、簿記の勉強をしていましたが、将来のキャリアパスが見えない状態でした。ただパソコンやソフトウェアの販売に携わっていたので、ソフトウェアの開発現場を身近に見る機会があり、ソフトウェア関連の仕事に興味を持っていました。そしてなんとか将来につながる手に職をつけたいと思っていました。
英語は興味があったのですが、日本企業の国内営業だったので英語を使う機会は全くなく、しゃべることはほとんどできませんでした。 スキルなし、英語もだめ。この中途半端な状態を打破すべく、留学して専門スキルを身につけようと思いたちました。それには大学院に行くのがいいと思い、然るべきところへ相談に行ったのですが、「学部は文系なのに大学院はコンピューターサイエンスとか無理です」とバッサリ。 まあ普通に考えればそうですよね。
アメリカに留学してITを基礎を学ぶ
そこで、アメリカの大学のビジネス系の一年コースで学ぶことにしました。 アメリカの大学は、4年制の学士コースの他にも短期のいろんなコースがあります。まずは大学付属の英語学校の短期コースからスタート。日本の学校では決して教えてくれなかった発音やライティングの基礎を学びました。
その後、大学のビジネス学部やコンピューターサイエンス学部のコースをちょこちょこ取っていましたが、一年では中途半端で何のスキルも身につかなかったので、大学院に行くことにしました。
選んだのはビジネススクールの情報システム修士コース。 これは大学院のビジネス学部です。様々な分野で仕事をしていて、IT分野に転職したい人やIT分野のスキルや知識を強化したい人たちが集まってきます。
情報システム学部は、経営に情報システムをどう活かすかを勉強します。ビジネスとコンピュータサイエンスの中間にあたり、コンピュータサイエンスほどテクニカルではありません。ビジネス系の科目では、MBAの学生に混じって、マーケティング、企業会計、統計、プロジェクトマネジメントなどの科目を取りました。IT系ではプログラミングの基礎、アプリケーション開発、システム分析、データベース、ネットワーク、システムアーキテクチャなどを勉強しました。
このコースでは技術系もビジネス系も幅広く学べただけでなく、非常に実践的な内容でした。教授陣も現場の経験がある人が多く、プロジェクトでクラスメイトと一緒に大手企業のIT部門を訪問し、インタビューをして論文をまとめたこともありました。ここで学んだことは、今でも私のITキャリアの基盤になっています。
日本では文系でも技術職に応募することは可能ですが、海外では文学部出身の人がエンジニアに応募すること自体できないことも多いです。スキルも経験もない人は即戦力にならないので、雇ってもらえないのです。私はIT系の学位を取っていたので、海外就職でも問題ありませんでした。
コンサルタントしてITキャリアをスタート
大学院を卒業して日本に戻り、最初の就職先は外資系コンサルティング会社でした。プログラマーになるつもりはなく、ビジネス系のITキャリアを積みたかったので、企業向けパッケージソフトのコンサルタントになりました。同僚には公認会計士とか、製造プロセスの専門家とか、実にいろんな分野の専門家がいました。
私は会計ソフトの担当だったので、IT知識も必要ですが、高度な会計知識もそれ以上に必須。まわりには業務系の資格を取ろうと頑張っている人が多く、私は会社の勧めもあって、アメリカ公認会計士の資格試験の勉強をしていました。結局資格取得には至らなかったのですが、英文会計の知識は、会計関連の仕事をしていない今でも仕事で役にたっています。財務会計はなんといってもビジネスの基本ですからね。ITエンジニアでも業務知識が必須の職種も多いのです。
セールスエンジニアとしてキャリア形成
その後は複数の外資系ソフトウェア会社でセールスエンジニアをしました。これは営業と技術職のかけ合わせのようなもので、顧客に対してソリューションを提案する仕事です。様々な企業を訪問して要件を聞き、ソフトウェアを顧客向けにカスタマイズしてデモンストレーションをし、技術ソリューションをまとめ、提案書を提出します。時にはセミナーの講師や顧客向けカンファレンスで講演もしました。
この仕事のおかげで、全国津々浦々の様々な業界の企業を訪問することができました。ソフトウェア技術ばかりでなく、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力、顧客折衝能力を磨くことができました。また製品開発や販売業務などの目的で世界中の同僚と一緒に仕事をし、海外出張も頻繁にしていました。
海外では「ずらし転職」で乗り切る
海外との仕事が多かったことで、海外で働いてみたいという思いを強くし、いろいろと策を練った結果、最終的にはオーストラリアに転職しました。日本でしていた仕事の実績を元にソフトウェアエンジニアとして労働ビザを取ったのですが、国が変わればそのままの職種で仕事を続けることができるとは限りません。
それまで海外との仕事が多かったとはいえ、ローカル企業での採用となると高い英語力が求められます。私の英語力では営業の仕事を続けるのは無理がありました。それに転職先はまったく新しい別の国。その国のことを良く知らないのにクライアントを理解するのは簡単なことではありません。
そこで最初に就職したのはITコンサルティング会社です。この会社は様々な専門技術を持つ世界中から移住してきたコンサルタントがいて、顧客企業に常駐して仕事をしていました。私は日本で使っていたソフトウェアの技術者として、主に開発業務に携わりました。それほど高いコミュニケーション能力もマーケットの知識も求められない職種だったので、移住当初の仕事としては最適でした。
その後も前職で得た技術や経験と、新しく得たスキルを活かし、職種や業界を少しずつずらしながら転職を繰り返してきました。時代の流れによって求められる技術が変わり、市場の状況が変わり、自分のやりたい仕事やできる仕事も変わっていきます。IT教育で基礎を作り、自分のバックグラウンドを活かしながら転職することで、文系出身でもIT業界でキャリアを構築することができました。
文系でもIT転職は十分可能
このように、まったくITオンチな私でもITエンジニアとして食べていけるようになりました。その秘訣をまとめます。ここに挙げることはITだけでなく、どんな業種でもあてはまると思います。
学校に行って勉強する
得意分野とITを組み合わせる
軸をずらしながらキャリアアップ
1. 学校に行って勉強する
専門知識がないなら、やはり教育機関で勉強するのが王道です。どの程度勉強したいのかによりますが、私は会社をやめて数年間勉強に集中したことで、それから何年にもわたるITキャリアの基盤をしっかり作り、違う分野への転職を成功させることができました。
ITエンジニアになるための勉強は、就きたい職種によって実にさまざまなものがあります。なりたい職業をおおまかにきめてから、どんな学校に行くか決めるといいと思います。なお、日本のIT教育はそれほど充実しておらず、IT関連の学位も限られています。海外に目を向ければ実にさまざまなすばらしいコースがたくさんあります。特に海外での転職を有利にするなら、海外の大学を出ておくことをお勧めします。
海外では年齢に関係なく、途中からまったく違う分野に転職することはめずらしくありません。私が卒業した大学院は、20歳代の人は非常に少なく、30代から60代まで実にさまざまな人たちが勉強に来ていました。男女比も半々ぐらいで、日本のようにIT業界は男性一色ということはありません。男女年齢関係なく、学びたい時がベストなのです。
2. 得意分野とITを組み合わせる
ITというとコンピュータおたくみたいなイメージを持つ人もいますが、実は星の数ほどいろんな職種があります。IT分野でも他分野のスキルと経験が求められる職種が数多くあるのです。違う分野からIT職種への転職をめざすなら、自分のバックグラウンドを活かす戦略を考えてみてはどうでしょうか?
販売、マーケティング、会計、人事など、いろいろな分野の経験を活かせるIT職種はたくさんあります。二つ以上の専門分野を組み合わせると、自分のユニークなプロファイルを作ることができ、最初からIT分野でキャリアアップしてきた人との差別化を図ることができ、競争優位性が高まります。
3. 軸をずらしながらキャリアアップ
違う分野にキャリアチェンジするからといって、これまで築いてきたキャリアを無駄にするのはもったいない話です。過去の経験をもとに軸をずらしながらキャリアアップしていくのがお勧めです。
たとえば、人事の仕事をしていたのなら、人事の知識とIT知識を勉強して人事システムの専門家になる、プロジェクトメンバーとして多くのプロジェクトをこなしてきたなら、プロジェクトマネジメントを勉強してプロジェクトマネージャーになる、ウェブ系の仕事の経験があるなら他の業界でそれをやってみる、特定の技術の経験があるなら、その技術が生かせる他の職種に移る、小規模の会社で経験があるなら大企業でチャレンジするなどです。
経験のない人がIT業界に転職するのは、きちんと準備して戦略を練れば十分可能です。IT専門職は世界で不足している職種ですから、キャリアを積むことで海外転職への道も開けます。