あなたは突然解雇されたことがありますか?コロナウィルスは世界中を失業の嵐に巻き込みました。旅行業、小売業、飲食業など、多くの業界で働く膨大な数の人たちが突然失職を余儀なくされました。まだ失業していない人も、これからどうなるかわかりません。コロナがなくても、この経済の先行きが不透明な時代に、私たちの仕事が突然なくなることは想定しておかなければなりません。特に海外や外資系では整理解雇(lay-off, redundancy)は昔から一般的です。
整理解雇は悪いことばかりとは限りません。自分の未来が変わるチャンスでもあります。私は失業から次のチャンスを何度もつかみました。今回はこの降ってわいたチャンスをどう活用してすばらしい未来につなげていったらいいかを考えてみます。
私の失業体験
ある朝会社に行ったら同僚がいなくなっていた
私の初めての整理解雇を目にしたのは、日本で外資系企業の小さな日本事務所に勤めていた時でした。その会社が他企業に買収された直後のある朝、自宅から直接客先に出向いた後事務所に戻ると、入り口に備え付けられたセキュリティシステムの暗証番号が使えなくなっています。社員に電話してドアを開けてもらいました。
聞くところによると、私がいつも一緒に仕事をしていた同僚が、朝一番に解雇を宣告されたとのこと。5分で荷物をまとめて出ていくように命じられ、事務職の社員はすぐに暗証番号を変えるよう依頼されたそうです。そうはいってもさすがに5分では無理だったのでもうしばらくかかったそうですが、私が帰社したときにはもういなくなっていました。
即刻退社を命じられて事務所に立ち入れなくしたのは、営業部長の彼が顧客情報などの機密情報を持ち出すことを防ぐなど、会社のリスク回避のためでしょう。いやはや、びっくりしましたね。彼と最後に言葉をかわすことさえできませんでした。
ある朝会社に行ったとたん解雇を宣告された
私自身の最初の解雇経験は、やはり日本にいたときの買収時の余剰人員解雇でした。ある朝、その日の仕事の予定を考えながらいつもの通り出社すると、事務所のほとんどの社員が大会議室に集められ、「ここにいる人は全員今日が最終出社日です、そこに段ボールが用意してあるから私物をまとめて家に送るように」と言われました。指さされた先を見ると、本当に壁にたくさんの折りたたんだ段ボール箱が立てかけてあるではないですか!つまり買収後の後処理に必要な少数の人員を残して全員解雇です。
こんな解雇はアメリカ映画の中だけだと思っていたので、動揺を通り過ぎて、頭の中が真っ白になって何も考えられません。あまりのショックで、恥ずかしさもあって家族にも友人にも言えず、かといって家にそのまま帰る気にもなれません。この時が初めてです、一人でバーに行ったのは。もちろん他の同僚もみんな唖然として言葉がありませんでした。みんな日本ではこんなことはありえないと思っていたのです。確かに日本の法律では一か月前に解雇の予告をすることになっていますが、一か月分の給料を払えば日本でも即日解雇が可能です。
整理解雇の時は即日か、最終出社日まであまり時間をおかない場合が多いです。外資系の場合は引継ぎはあまり重要ではありません。職務内容がはっきり決まっているので、その仕事がまた必要になった時は同じスペックの人を雇うだけですからね。
解雇された人とされなかった人が同じ職場にいた場合は、お互い顔を合わせるのが気まずいです。私が二回目に整理解雇されたときはやはり日本で、宣告から最終出社まで3日ありましたが、解雇された人の方が少数派だったので、会社に残る同じチームの人と一緒に仕事をするのは苦痛でした。こんなみじめな思いをするぐらいならすぐ退職させてくれたほうがよかったです。
アメリカなんかだと、レイオフされた逆恨みで上司を殺しちゃった話をよくききます。解雇というのはされた方にしてみたらものすごくショックなことで、会社や上司への復讐に発展しかねないので、早く職場から去ってもらって火の元を早めに消しておこうというわけですね。
ある朝会社に行ったら社員全員二か月帰休になった
私がコロナ禍でStand down(一時帰休)になったときは、朝出社直後に社員全員が集められ、社員の9割が翌日から2か月の帰休になりました。その日の給料はもらいましたけど、発表があった直後に同僚たちはそれぞれ荷物をまとめて、そそくさと家に帰っていきました。明日から仕事がないとわかっているのに、もう仕事なんかやる気になりませんよね。
最初のショックを乗り越える
失業の心理的影響
突然の失業は晴天の霹靂、このショックはたとえようのないものです。自分の業績が悪かったわけでもないのに突然仕事が奪われ、収入がなくなる。このつらさは経験した人でなければわからないでしょう。あまり突然なので、起こったことを認めることができずにいつまでも抵抗しがちです。
そして悲しみ、絶望、失望の入り混じった感情に囚われます。明日からどうやって食べていけばいいのか?仕事はまた見つかるのか?という不安。失業したことを恥ずかしいと思うあまり、他人に言えずに自分一人でもんもんと悩んでしまいます。これらの感情は雇用主や上司や同僚や自分に対する恨みや怒りに発展します。
なるべく早く気持ちを切り替える
初期のこの動揺は人間として普通のことなので、平穏でいることは難しいでしょう。まずは起こったことを認めることが最初の課題だと思います。私はしばらく前に一時帰休になったときは、ショックで何もする気になれなかったので、自宅へ帰ってからすぐ近くのビーチに行って、波の音を聞きながら白い浜辺を歩いてぼーっとしていました。変わらない大自然を見ていると、私に起こったことなんかちっぽけに感じます。
人は最初は変化に抵抗するものです。でも起こったことはもうもとに戻せないのですから、抵抗しても時間の無駄。早く認めてしまって次のステージを考え始めたほうが得です。
するべきでないこと
よく陥りやすいのは、失業したのは自分に非があるからではないかと考えてしまうことです。私がもっと頑張って仕事をしていたら?、あのとき上司に別の発言をしていたら?、同僚は残っているのになぜ私だけが追い出されるのか?と自分に結び付けて考えてしまう。
絶対に覚えておいてほしいのは、整理解雇は従業員でなく、会社の都合です。あなたが悪かったからではなく、会社が経営を上手くできなかったからなのです。そして対象社員を選ぶ時も、社歴、職務範囲、給与などをもとにビジネスライクに決めていきます。個々の従業員の業績とは関係ありません。実際私も非常に優秀な社員がレイオフされる現場を見てきました。
この時期は動揺のあまり、あせってレジュメを送りまくったりしがちですが、冷静に考えられないときにやたらに行動してもいい結果はでないでしょう。まず心理状態を冷静に戻すことに集中することをお勧めします。
逆境をチャンスに変える
この機会をどう活用するか?
失業自体は不幸なことかもしれませんが、考えようによっては大きなチャンスかもしれません。失った仕事はあなたが心から楽しんでやっていた仕事ですか?なにか不満はありませんでしたか?社風は自分に合っていましたか?実は心の底で違うことをやりたかったということはありませんか?
もしかしたら、これをきっかけに思ってもみなかったいい仕事が見つかるかもしれません。仕事にいかなくていいということは、キャリアプランをじっくり考える時間があるということ。自分はいままで何をしてきたのか?これから何をやりたいのか?そのためには何が必要なのか?を深く考えるには絶好のチャンスです。
また失業期間中は、前からやりたかったけど忙しくてできなかったことをするいいチャンスです。オンライントレーニングなど、自分の職種に関連したスキルアップをするいい機会でもあります。失業期間が終わったころには成長している自分がいることでしょう。
私は日本で失業していたとき、英語のリスニングのトレーニングに毎日通いました。このプログラムは毎日通う必要があったので、勤めているときに通うのは難しかったのです。オーストラリアに来てからも、発音矯正のトレーニングに通ったのは失業中でした。
また、普段疎遠になっていた友人にかたっぱしから連絡して、会ったり電話で話したりしました。勉強会に顔を出して人と会う機会を作ったりもしました。失業期間中は孤独になり、自信を失いがちです。人と交流することが自信につながり、ストレス解消にもなります。
仕事探しの準備を始める
将来のプランができてきたら、次は仕事探しの準備です。最初にやるのはレジュメの更新ですが、そのためにはこれまでの実績をまとめる必要があります。これは失職から時間をあまりおかずにやっておくことをお勧めします。なぜなら、細かい仕事の内容は時間がたつと意外と忘れてしまうものなんです。自分の成功体験をはっきりと思い浮かべられるうちに書きとめておくと、あとで面接のときに役に立ちます。不確実時代を生き残る転職力にも書いていますが、自分の実績をまとめておくことは、本当は働いている時からやっておくのが一番いいのです。
マーケットを見ておくことも必要です。経済動向によって転職市場は変わります。職種によってもトレンドが変わるので、以前職探しをしていたときに多くあった求人は今はあまりなかったり、新しい職種やスキルの需要がでてきたりします。業界の浮き沈みもあります。
転職サイトや転職エージェントに登録し、エージェントに相談することで、自分の今現在のマーケットでの立ち位置もわかってきます。そして今の自分のスキルと将来ほしいスキルのギャップ分析をします。ほしいスキルは次の仕事で得られるかもしれないし、失業期間中に得られるかもしれません。
失業で運命が開けた
私は一番最初に経験した整理解雇の後、エージェントに勧められてアメリカの大手ソフトウェア会社に転職しました。このソフトウェアは技術移民としてオーストラリアの永住権を申請する時の職業リストに載っていたので、このソフトウェアの実績を元に永住権を得ることができました。失業したときはまさかこんな風に運命が転ぶとは思ってもみませんでした。
二番目の整理解雇の後は、前から気になっていた分野のソフトウェア会社に転職しました。この時キャリアチェンジしてからの仕事は今でもずっと続いていて、結果的にこの時に得た仕事をもとにオーストラリアでもキャリアを構築していくことになったのです。
また、海外旅行がメインの旅行会社で期限付き社員として働いていた時、契約延長を口頭で約束されていたにもかかわらず、直前に部署ごとなくなってしまって契約更新なしになりました。そのときは失業して次の仕事を探しましたが、コロナ危機が来て旅行業界は壊滅状態です。大規模なリストラが行われ、かつての同僚も退職を余儀なくされました。私も残っていたら同じ目に遭ったでしょう。早々と他の業界に移っておいてラッキーでした。
運命というのはわからないものです。その時は不幸のどん底にいたとしても、もしかしたら将来、あの転機があったおかげで新しい人生が開けたと思える時が来るかもしれません。自分のあらかじめ立てた計画通りに人生を進めることだけが最高の人生とは限らないのです。
失業は自分ではコントロールできませんが、起こったことを冷静に受け止めて、それを転機に変えることは自分の意志でできます。他人に背中を押されたり、運命の流れに沿っていくことで開ける人生もあるのです。私は失業で未来が開けました。失業は思ってもないチャンスかもしれませんよ。
A pessimist sees the difficulty in every opportunity; an optimist sees the opportunity in every difficulty
Winston Churchill