日本人が海外就職を考えるとき、誰でも一度は日本企業の現地法人を就職先として考えるのではないでしょうか。でも海外で働くからといって、必ずしも海外流の働き方ができるとは限りません。
私は日本の会社を辞め、日本では得ることのできない生活環境を得ることができました。プライベートな時間ががたっぷり取れる労働環境、自分の意志で自由に人生とキャリアを構築できること、個人の意志が尊重される社会でのびのびと過ごせること・・・。
でもこれらのメリットは、外資系企業で働いているから得られることかもしれません。同じ海外就職でも、雇用主が日系企業になると話はガラリと変わってきます。
海外にある日系企業で働く場合、駐在員と現地採用の2つの方法があります。もしあなたが海外流の働き方を求めている場合、 日系企業に現地採用として働くと期待外れになる可能性もあります。
入社してからこんなはずじゃなかったとならないうように、あらかじめ知っておくべきこと、そして現地採用をキャリアアップにうまく利用する方法を考えてみます 。
日系の海外現地法人の実態
窮屈な日系企業でも、海外事務所に行けば外人も多くて、海外の自由な雰囲気のなかでのびのびと仕事ができるんじゃないか・・・とつい思ってしまいますよね。ところが、日本企業の海外法人は、日本の働き方をそのまま持ち込んでいることが多く、場合によっては日本に事務所を置く会社より日本的だったりします。
日系企業は、昔から海外事業所をローカライズしない歴史があります。日本から駐在員を派遣し、管理職は日本人。日本人の仲間で作られる日本人村で、現地のマネジメントをするのです。現地の事情をわかっている現地人にビジネスを任せることが多い他の国とは違います。
駐在員は、現地語があまりできなくても派遣されます。私の友人の夫はまったくといっていいほど英語ができないのにニューヨークに駐在し、現地との付き合いもないので現地のことはほとんど知りませんでした。ほとんど英語がしゃべれない日本の同僚が、よくきいてみたらアメリカに3年も駐在していたとか、現地採用の友人の上司が英語がわからなくて通訳や翻訳をさせられているとか、こんな話はよく聞きます。
現地人とうまくコミュニケーションできなかったり、日本のやりかたをそのまま持ち込み、現地社会とスムーズに融合することができないケースもあります。
海外にいても日本の労働文化がついてくる
日本の企業文化が持ち込まれるため、日本流のサービス残業、休日出勤、勤務時間外を使った飲み会や交流会などがあったりします。日本流の「お客様は神様」の考えがあるため、顧客のためなら私生活を犠牲にしてもやるべきという考え方も根強いのです。
日系企業の現地法人は日本の企業や顧客をクライアントを持つことが多いため、クライアントの日本的な習慣を受け入れざるを得なくなります。オーストラリアの会社で働き、日本の会社をクライアントに持つ人が、「もう日本の会社とは働きたくない」と言うのを何度か耳にしました。オーストラリアにいても、無理な要望を押し付けて残業させるとか、要望が必要以上に細かいとか、日本流の働き方を期待されるためです。このような企業文化は日本特有で、プライベートを大切にする現地社会の価値観とはかみ合いません。
日本流の滅私奉公は、現地採用のスタッフにも期待されます。しかしオーストラリアの場合は、労働者の権利は強く守られているため、無理な残業や休日出勤を押し付けることはできません。そんなことをされたら、辞めて他の会社に行くだけです。
そこで、無理な要望は日本人の現地採用に向かうことになります。日本人とはいえ現地社会に根をおろす会社ですから、本来従業員の出身国にかかわらず現地基準の労働環境を提供するべきですが、そこは「同じ日本人なんだから日本流がわかるだろう」と期待されるわけです。現地の非日本人スタッフには頼みにくいことを、日本人だからという理由で頼まれたりします。日本人ならではの、空気を読んでまわりに従うことが期待されるのですね。
現地採用では外資系流のキャリアアップが難しい
日系企業の現地法人では、同じ日本人でも駐在員と現地採用の間では、明確な身分差があることがよく知られています。 本社から派遣された駐在員は豪華な住宅に住み、多額の手当を支給され、日本に帰りたくなくなるほどいい生活ができます。そして現地法人のトップはたいてい日本人です。だから現地採用が上のポジションに昇進する可能性は低くなります。
管理職は駐在員とはいえ、必要な人材は現地から雇わなくてはなりません。ですが現地の従業員は、日本流の働き方をなかなか理解することできません。
そこで登場するのが日本人の現地採用です。彼らは駐在員たちと、現地スタッフやクライアントの間を取り持つことが期待されます。また英語を理解しない駐在員の通訳や翻訳に駆り出されたりします。
外資系企業の場合、ポジションは専門性で決められ、ジョブディスクリプションで仕事内容が細かく定義されます。契約上の仕事以外は一切しませんから、従業員は特定の専門分野の経験を積みながらキャリア構築できます。一方日本の働き方は、仕事内容があいまいで、特定分野だけの仕事をするわけではありません。キャリアの考え方が全然違うのですね。
ある日系企業の現地採用として働いていた友人からきいた話ですが、現地で新しい人材採用の話をしていたとき、駐在員が「あの人は優秀で向上心が高そうだけど、経験を積んだら2、3年で辞めそうだから、長くいてくれそうな人を採ろう」と言っていたそうです。
外資系では即戦力としてすぐに業績を上げてくれる人材が求められ、優秀な人ならキャリアを積むためにどんどん転職するのが普通です。日系企業は、仕事が出来る人より長くいてくれる人を好むのですね。その優秀な応募者は、その会社の競合他社へ行ってバリバリ活躍しているのでしょうか?日本の会社は海外の優秀な人材を使いこなすのが上手ではないのかもしれません。
現地採用の給料に注意
欧米の国では、日系企業の給料が現地の標準に比べて低い傾向にあります。日本でも、日系企業に比べて外資系企業の給料は高いですね。現地採用の応募者が現地語が得意でなく、日本語が生かせる日系企業でしか働けない場合、需要と供給の関係で低い給料に甘んじなければならない場合もあります。
日本からの駐在員はいろいろな手当てが出て、給料も日本と現地の両方に振り込まれたりします。家賃、生活費、社会保険、帰国費用なども会社の負担になる場合が多く、経済的にはかなり豊かな生活ができます。会社負担の家は、日本では決して住めないような豪華な家に住む人も多いです。
一般的に日系企業は成果主義ではなく、同一労働同一賃金の概念がないので、同じ仕事をしていても人によって賃金が違ったります。現地採用として働く場合は、このような事実を認識しておく必要があります。
おすすめの現地採用
日系の海外法人の一般的な傾向を書きましたが、もちろん会社によって違います。現地採用の中でも私がお勧めするケースを挙げてみます。
管理職か高度専門職のポジション
現地採用でも、少ないですが管理職や高度専門職のポジションもあります。管理職なら自分のやり方で仕事ができる可能性が高いし、駐在員に対しても発言権が持てます。
高度専門職として採用され、ジョブディスクリプションに担当業務が明記されている場合は、基本的に自分の専門と関係ない仕事を要求されることはありません。専門分野の経験を次の会社で生かすことができれば、キャリア構築上有利になります。
上司が非日本人
上司が日本人の駐在員だと、日本の労働文化をそのまま持ち込む可能性が高いので、海外にいても日本流の仕事の仕方になりますが、上司が日本人でないならその影響は緩くなります。
外資系との合弁や現地化が進んでいる会社
日系企業と現地企業との合弁会社は、トップが非日本人であることが多く、日本の企業文化が薄れます。現地化が進んでいて、管理職に現地人を登用する会社も同様です。
現地採用として働くなら将来のキャリアに生かせる道を
私はこれまでに海外で働いた会社は、すべてオーストラリアの会社かグローバル企業なので、日系企業の現地採用として働いた経験はありません。でも家族、友人、知人から日系企業の話はいつもきいていて、日本の会社と変わらない実態を知っていました。私が海外転職をした理由は日本の企業文化が合わなかったからなので、日本の会社で働く動機はありませんでした。
でも日本人にとって、日系企業は就職先として魅力的ですよね。なんといっても日本語が生かせるのは大きなメリットです。私もエージェントに誘われて応募を検討したことがあります。日本への出張があるポジションだったので惹かれました。結局そのポジションが私の将来のキャリアパスにうまく当てはまらなかったので、応募は断念しましたが。
海外の日系企業の多くは、日本の労働文化を継承し、現地採用では給料が低く、キャリアアップの道も限られています。でも、次のポジションへの足がかりにすることは可能です。海外就職が初めての場合や現地語能力が限られている場合、仕事のオファーを現地企業からもらうのはハードルが高いのも確かです。最初に日本語が生かせる日系企業で経験を積み、現地で働く経験を積んだ後に外資企業に行くというのはいいキャリアアップの方法です。
日系企業の現地採用として働く場合、面接のときに企業文化や仕事内容をよく調べて、自分の目的に合った会社を見つけること、そして将来のキャリアに生かせるポジションを見つけることをおすすめします。
外資企業と日本企業のキャリア構築の違いについてはこちらの記事をどうぞ